カナダの商業ラジオは、流す曲の割合を法律で決められている。ポピュラー音楽のうち35%以上は「カナダ産」でなければならない。好みの話ではなく、免許の条件だ。
この仕組みがおもしろいのは、「国産を増やそう」という曖昧な願いを、採点できるルールに翻訳しきったところにある。しかも一度では完成せず、抜け道が見つかるたびに書き直されてきた。ルールを設計する人間にとって、カナダのラジオは教科書だと思う。
1971年1月、カナダは「かける曲の割合」を決めた
1960年代のカナダの音楽家は、自国のラジオにほとんど相手にされなかった。アメリカかイギリスで先に売れてから、ようやく故郷で流れる。順番が逆だった。
1971年1月18日、カナダ放送通信委員会(CRTC)が、ラジオ局に対して一定割合をカナダの音楽に充てるよう義務づけた。当時の委員長はピエール・ジュノー。カナダ最大の音楽賞「ジュノー賞」は、1971年に彼の名をとって改称されたものだ。賞の名前に規制官の名が残っている国は、そう多くない。
現在の水準はこうなっている。商業ラジオは、放送週ごとにポピュラー音楽(カテゴリー2)の35%以上をカナダ産の楽曲にすること。
「カナダらしさ」を4文字の機械的チェックに落とした
ここが一番の発明だと思う。「この曲はカナダ的か」を感覚で判定させたら、現場は回らない。そこで採用されたのが MAPL システムだ。ジュノー賞の共同創設者スタン・クリーズが考えた仕組みで、4つの条件を見る。
- M(Music):作曲がカナダ人によるもの
- A(Artist):演奏または歌唱が主にカナダ人によるもの
- P(Performance):カナダ国内で録音された、またはカナダ国内で演奏され生放送されたもの
- L(Lyrics):作詞がカナダ人によるもの
原則として、このうち2つ以上を満たせばカナダ産と認められる。4つ全部ではなく2つ。ここに設計の知恵がある。全部を求めれば該当曲が足りなくなり、1つでよければ名義貸しで骨抜きになる。「2 of 4」は、量を確保しながら実質も残すための落としどころだ。
曖昧な価値判断を部品に分解して、充足数で判定する。この型は、自分の仕事にそのまま持ち込める。「良いコンテンツ」「自社らしい商品」みたいな言葉を、第三者が数えられる条件の束に置き換えられるかどうか。置き換えられないルールは、運用すると必ず揉める。
抜け道は、測っていない次元に出る
当初の規制には穴があった。縛られているのは「放送週あたりの総量」だけだったので、局はカナダの曲を早朝や深夜に固めて数字を満たし、人が聴く時間帯は海外の曲で埋めた。この押し込み先は「ビーバー・アワー」と揶揄された。条件は満たしている。目的は満たしていない。
対策は明快だった。時間帯そのものを条件に加えたのだ。現在は、放送週あたり35%に加えて、平日の午前6時から午後6時のあいだに流すポピュラー音楽についても35%以上をカナダ産にしなければならない。
教訓は単純で、応用範囲が広い。人は、測られていない次元に逃げる。総量だけを指標にすれば配置で抜かれ、件数だけを見れば質で抜かれる。ルールを作るときは「この条件を最小コストで満たすなら自分はどうするか」を先に一度やってみて、出てきた抜け道の次元を最初から塞いでおくほうが早い。
数字は一種類ではない
カナダがさらに踏み込んでいるのは、守りたいものごとに別の数字を割り当てている点だ。フランス語の商業ラジオ局には、国籍とは別の枠がある。放送週ごとに、歌詞のあるポピュラー音楽の65%以上をフランス語の楽曲にすること。そして平日午前6時〜午後6時については55%以上。CRTCは2022年の政策で、この65%と55%という水準を維持すると明示している。
総量と時間帯、国籍と言語。守りたい軸が複数あるなら、指標も複数要る。ひとつの数字で全部を代表させようとすると、どれかが必ず犠牲になる。
配信時代の書き直しは、まだ終わっていない
そして今、同じ問いが配信サービスに移っている。
2023年4月27日、オンライン・ストリーミング法(法案C-11)が成立し、CRTCは国外の配信事業者にもカナダ番組への貢献を求められるようになった。2025年11月18日には「カナダ番組」の定義そのものが更新された。中心にあるのは、カナダ人が主要なクリエイティブ職を占めているかを点数で見る考え方で、対象となる職種にショーランナー、特殊効果監督、衣装責任者などが加わった。カナダを舞台にした物語や、カナダの出版物を原作にした作品にはボーナス点が付く。
さらに重要なのは、CRTCがこれらの役割は人間が担うべきだとし、生成AIで置き換えることは認めないと整理したことだ。AIは制作を助ける道具としては使えるが、創作のコントロールを人間が持っていなければ「カナダ産」とは認められない。報酬がカナダの作り手に渡ることが目的なのだから、筋は通っている。
金額の側はまだ揺れている。2026年5月、CRTCは配信事業者に求めるカナダ番組向けの支出水準を、従来の5%から15%へ引き上げる決定を出した。ところが6月3日、政府がこの決定の再検討をCRTCに指示した。理由は、負担が最終的に視聴者の料金に転嫁されうるというものだ。2026年10月時点で、この再検討に結論は出ていない。
半世紀以上かけて、まだ定義を書き直している。それは失敗ではなく、流通の形が変わればルールも作り直すのが当たり前だという態度だ。
自分のサイズで試せること
国の制度の話に見えて、中身は小さな事業にも効く。僕が持ち帰ったのは4つだ。
- 棚を先に押さえる。良いものを作れば見つかる、は希望的すぎる。カナダがやったのは品質支援ではなく、流通の割り当てだった。自分の商品やコンテンツにも、確実に露出する場所を先に確保しておく。
- 判定を部品にする。「自社らしい」を、2つ以上満たせば合格、という形の条件リストに書き換える。他人が同じ結論を出せるかが基準。
- 抜け道の次元を先に塞ぐ。自分の指標を最小コストで満たす方法を考えて、その手が通るなら条件を足す。総量を決めたら、配置も決める。
- 定義に賞味期限を書く。ルールは環境が変われば合わなくなる。見直す時期を最初から決めておけば、ずれたまま運用し続けずに済む。
35%という数字自体に意味はない。意味があるのは、曖昧な意図を測れる形にして、抜け道が出たら測る次元を増やし、環境が変わったら書き直すという一連の動きだ。カナダはそれを半世紀以上、公開の場で続けている。真似できる部分は、思ったより多い。
参考・出典
- Broadcasting Regulatory Policy CRTC 2022-332
- CRTC: French-language music and Canadian content on radio
- CBC Archives: How Canadian content rules influenced the music industry in the 1970s
- Canadian content (Wikipedia)
- CRTC updates definition of Canadian content to better support Canadian stories and creators
- Global News: Ottawa orders CRTC review of streamer spending rules