2026年1・2月期の統一発票くじで、台湾・屏東県のファミリーマートで切られた39台湾ドルのレシートが、最高賞の1,000万台湾ドルを当てた。買ったものはお茶2本。台中のPX Mart(全聯)では、豆腐と豆乳に65台湾ドル払ったレシートが、同じく1,000万元を引き当てている。
これは幸運話ではなく、設計の話だ。台湾では、コンビニで飲み物を1本買っても、受け取るレシートに8桁の番号が印字されている。その番号がそのまま宝くじの券になる。国が発行し、国が抽選し、国が賞金を払う。1951年の元日から、ずっとだ。
面白いのは「レシートをくじにした」という思いつきそのものではない。台湾が、この仕組みの目的が時代とともに変わるたびに、ルールではなく賞金の置き場所を動かして対応してきたことだ。ここには、個人の仕事にもそのまま持ち込める型がある。
取り締まりをやめて、利害を反転させた
始まりは1950年12月12日。台湾省政府の財政庁長だった任顕群が、統一発票(政府が様式を定めた領収書)の使用規則と、その賞金規則をセットで作った。施行は翌1951年1月1日。
当時の問題は単純で、しかし厄介だった。現金商売の店は売上を少なく申告できる。かといって、無数の小さな店を一軒ずつ調べて回る人員は、どの国にもない。監査のコストが、取れる税金を上回ってしまう。
ここで台湾が選んだのは、売り手をもっと厳しく見張ることではなかった。買い手の利害を、売り手の利害と逆向きにすることだった。
レシートを出したくないのは店だ。出してほしいのは、それがくじ券になる客だ。客が「発票ください」と言った瞬間、その取引は記録に載る。政府は監査官を増やす代わりに、レシートを受け取る全員を、報酬つきの記録係にしたことになる。
効果は初年度に出た。徴収額は1950年の2,900万台湾ドルから、1951年には5,100万台湾ドルへ。1年で75%増えている。財政部の資料も、当選への期待が人々に領収書を求めさせ、それが脱税の防止と国庫収入の増加につながったと明記している。
持ち帰れる視点はここだ。守ってほしいルールがあるとき、違反を探しに行くのは一番高くつく。ルールが守られると得をする人を見つけて、その人に小さな報酬を渡せば、監視そのものが要らなくなる。相手を変えようとせず、利害の向きを変える。
「たまに本当に当たる」頻度が、習慣をつくる
抽選は奇数月(1・3・5・7・9・11月)の25日。8桁の番号が5組、テレビ中継で引かれる。賞の構成はこうなっている。
- 特別賞(8桁が完全一致):1,000万台湾ドル
- 特賞(別の8桁が完全一致):200万台湾ドル
- 頭賞(3組の8桁が完全一致):各20万台湾ドル
- 下7桁一致:4万台湾ドル
- 下6桁一致:1万台湾ドル
- 下5桁一致:4,000台湾ドル
- 下4桁一致:1,000台湾ドル
- 下3桁一致:200台湾ドル
目を引くのは最高額のほうだ(1,000万元という額は2011年に200万元から引き上げられ、同時に賞金総額も33%増えて70億台湾ドルになった)。だが、この仕組みを日常的に回しているのは、一番下の200元のほうだ。
下3桁が合えば当たり。確率にしておよそ1,000分の1、それが1枚のレシートにつき頭賞3組ぶん判定される。2か月ぶんのレシートが財布に数十枚たまっていれば、200元が当たるのは珍しいことではない。金額は昼食1回ぶんだが、「当たったことがある」という実感が残る。その実感が、次もレジで発票を求めさせる。
大当たりは話題をつくり、小さな当たりは習慣をつくる。自分の仕組みを設計するときも同じで、報酬をひとつの大きな成果に集中させると、ほとんどの人は到達する前に降りる。刻んで、手前に置く。
目的が変わったら、ルールではなく賞金を動かす
ここからが、台湾のいちばん上手いところだ。
2000年代に入ると、この制度が解くべき課題は「脱税の防止」から別のものに移った。紙のレシートが多すぎるのだ。財政部が2006年に電子発票の導入を始めたとき、削減対象として挙げられた紙のレシートは年間およそ115億枚だった。
ふつうの発想なら、ここで規制を足す。紙の発行を制限する、電子化を義務づける、期限を切る。台湾はそうしなかった。代わりに、賞金の一部を「電子のほうにだけ」置いた。
それが雲端発票(クラウド発票)専用賞だ。スマホなどの「載具」(キャリア)に保存された電子レシートだけが対象になる、通常の賞とは別枠の賞である。2022年7・8月期の時点で総額12億1,700万台湾ドル。2024年9・10月期からはさらに拡大され、総額13億6,700万台湾ドルになった。内訳はこうだ。
- 100万台湾ドル:30本
- 2,000台湾ドル:16,000本
- 800台湾ドル:100,000本
- 500台湾ドル:2,450,000本
拡大は今も続いている。2026年1月から6月の抽選では、500元賞が1回あたり70万本(金額にして3億5,000万台湾ドル)追加された。
設計として重要なのは、紙のレシートも従来どおり通常の賞に参加できることだ。電子にしても何も失わない。ただ、電子にした人だけがもう一枠もらえる。禁止ではなく、片側だけを厚くする。
結果は数字に出ている。電子発票は2024年6月時点で統一発票全体の約86%。さらに載具に保存されるクラウド発票の利用率は、2025年10月時点で63.65%に達した。発行枚数は年間100億枚を超える。義務化ではなく、賞金の置き場所を変えただけで、である。
報酬は「受け取る手間」で死ぬ
もうひとつ、見逃せない仕上げがある。
かつてこのくじは、2か月ぶんのレシートを財布から出し、発表された当選番号と1枚ずつ照合し、当たったら本人確認書類を持って窓口へ行く、という作業を要求していた。200元のために、それをやる人は限られる。
今は違う。共通の載具である「手機条碼」(スマホのバーコード)にレシートをまとめ、財政部の電子発票プラットフォームで銀行口座を指定しておく。するとシステムが自動で当選番号と照合し、自動で換金し、指定口座へ自動で振り込む。専用アプリが当選を通知する。人間がやることは、レジでバーコードを見せることだけになった。
さらに、当たったレシートを自分で受け取らず、社会福祉団体へ寄付する選択肢もある。寄付先の「愛心碼」を選んでおけば、賞金はそのまま団体の口座に入る。受け取る手間をゼロにした結果、賞金を手放すという選択肢まで気軽に成立しているのが面白い。
どれだけ魅力的な報酬でも、受け取るのが面倒なら存在しないのと同じだ。仕組みを設計するとき、人は報酬の大きさばかり調整して、受け取り経路の摩擦を放置する。台湾が1951年の発明を今も生かし続けられているのは、賞金を増やしたからではなく、受け取りを「何もしない」に近づけ続けたからだ。
小さく試せること
この話から取り出せる型は、3つある。
- 守らせたいルールがあるなら、監視ではなく利害の反転を探す。「それが守られると誰が得をするか」を先に見つけ、その人に小さな報酬を渡すほうが、違反を探すより圧倒的に安い。
- 報酬は刻んで手前に置く。大当たりは話題を、小さな当たりは習慣をつくる。続けさせるのは後者だ。
- 方針を変えたいときは、禁止ではなく片側を厚くする。古いやり方を取り上げると抵抗が生まれる。新しいやり方にだけ「もう一枠」を足せば、人は自分から移る。
台湾に行く機会があるなら、レジで発票を受け取ってみてほしい。その8桁の番号は、75年前に設計されて今も改良され続けている、世界でいちばん長く回っているインセンティブ装置の一部だ。39元のお茶が1,000万元になる可能性は、実際にゼロではない。
参考・出典
- The History of Uniform Invoices Printed by the Printing Plant(中華民国財政部・財政史料館)
- Uniform Invoice - Wikipedia(賞金構成・1951年の税収推移・電子発票導入)
- Cloud invoice exclusive awards expanded, with total amount reaching NT$1.217 billion(財政部)
- Store cloud invoices through carriers, bind to mobile barcode, and never worry about missing out on prizes(財政部)
- NT$39 FamilyMart receipt wins invoice lottery's NT$10m prize - Taipei Times
- Taiwan boosts NT$500 cloud invoice prizes to 3.85 million per draw - Focus Taiwan
- Taiwan's E-Invoice System: Development, Adoption & ESG Impact(普及率統計)