チュニジアは、オリーブオイルの輸出で世界2位の国だ。国際オリーブ協会(IOC)の集計では、2024/25シーズンの世界輸出の27.9%、22万6472トンを1国で占めた。スペインに次ぐ2位で、イタリアより上である。それなのに、スーパーの棚に並ぶ瓶を何本ひっくり返して見ても、「チュニジア産」という文字はまず見つからない。
この落差は事故ではなく、仕組みだ。中身を分解すると、「作る力」と「値段をつける力」がどこで分かれるのかが、驚くほどはっきり数字に出てくる。しかもその数字は、そのまま自分の仕事に持ち帰れる。
世界2位の国から出ていくのは、瓶ではなくタンカーだ
チュニジア農業観測所(ONAGRI)がまとめた2025/26シーズン最初の9か月の数字が、事情を一発で説明してくれる。輸出量は36万8000トン、金額は46億530万ディナール。前シーズン同期比で量は55.3%増、金額は44.4%増という好調ぶりだ。
問題はその内訳である。
- 量ベース:バルク(未包装)86% / 容器入り14%
- 金額ベース:バルク81.4% / 容器入り18.6%
つまり、チュニジアから出ていくオリーブオイルの大半は、瓶でもラベルでもなく、タンクに入った液体そのものだ。行き先はほぼヨーロッパで、バルクのうち約47.4%はスペインの港に入る。そこで現地のオイルと混ぜられ、瓶に詰められ、ヨーロッパのブランド名を貼られて、世界へ再輸出される。
面白いのは、混ぜた側にチュニジア産の比率を表示する義務がない点だ。だから最終的に買う人は、その油がチュニジアの木から来たことを知る機会がない。原産地が消えるのは品質のせいではない。ラベルを貼る権利が誰にあるか、という制度の話だ。
なぜバルクで出す方が合理的になってしまうのか
この構造を支えているのが、EUとチュニジアの連合協定にもとづく無関税枠だ。チュニジアは年間5万6700トンまで、関税ゼロでEUにオリーブオイルを送れる。枠を超えた分には関税がかかるので、輸出業者にとっては「枠の中にどれだけ早く滑り込むか」が勝負になる。
ここでバルクが圧倒的に有利になる。タンクなら大量に、素早く、まとめて動かせるからだ。瓶詰めして、ラベルを作って、輸入国ごとの表示規制に合わせて、小売の棚を取りに行く——この工程は時間も資金も営業力も食う。枠という締め切りがある世界では、確実に捌ける相手にまとめて流す方が、毎年きれいに回る。
合理的な選択を全員が積み重ねた結果、国全体としては一番おいしい工程を他国に渡し続ける形になった。個々の判断が正しくても、全体の取り分が減っていく。この形は、オリーブオイルに限った話ではないはずだ。
「詰める」という一工程に、いくらの値段がついているか
ONAGRIの数字を割り算すると、その工程の値段が出てくる。
- バルク:36万8000トンの86%=約31万6000トンで、46億530万ディナールの81.4%=約37億5000万ディナール。1トンあたり約11,800ディナール。
- 容器入り:同じく約5万1500トンで、約8億5700万ディナール。1トンあたり約16,600ディナール。
差は約1.4倍。中身は同じオリーブオイルで、違うのは「容器に入れて、名前を付けて出したかどうか」だけだ。しかもこれは国境を出る時点の価格差にすぎない。混ぜて瓶詰めしてブランドを貼った先で価格がさらに乗ることは、上に見た流通の形からして明らかだ。
もっと示唆に富むのは、有機(オーガニック)の数字との比較である。同じ9か月で有機オリーブオイルの輸出は5万1200トン、約6億7340万ディナール。1トンあたり約13,150ディナールだ。全体平均が約12,510ディナールなので、有機認証による上乗せは、この段階では5%ほどにとどまる。
認証は5%、容器とラベルは40%。品質を証明する努力より、買い手に直接触れる最後の一工程を自分で持つことの方が、取り分に効いている。良いものを作る人ほど直感に反する数字だと思う。
ジェムナの畑は、同じ原理を村の規模でやってみせた
チュニジア南部のオアシスの町ジェムナに、この原理を地でいく実例がある。名産のナツメヤシ「デグレット・ヌール」を育てる、約185ヘクタール(460エーカー)の農園だ。
2011年1月、ベン・アリ大統領が国を去る2日前に、住民たちがこの農園に入った。フランス統治下の1912年に先祖から接収された土地だ、というのが彼らの主張だった。以来、「ジェムナ・オアシス保護協会」が畑を共同で運営している。土地の所有権は今も国にあり、住民が持っているのは運営権だ。国有地の集団的な管理を地域が交渉で獲得した、チュニジアでも珍しい例とされる。
結果はわかりやすい。占拠前、この農園が地元に生んでいた仕事は20人分だった。共同運営に切り替わったあとは162人分になっている。そして利益は配当として散らされず、住民との相談で使い道が決まる。これまでに、小学校の新しい教室、ナツメヤシ卸売市場の屋根の葺き替え、地域の救急車、町から進学した大学生への学資援助などに充てられてきた。
ジェムナがやったのは、育てる工程ではなく、収穫物を誰に、いくらで、どう渡すかという工程を自分たちの手元に置く、という一点だ。オリーブオイルの1.4倍と、まったく同じ話が村の規模で起きている。
持ち帰れる型:最後の一工程を、部分的に取り返す
この話は「中間業者は悪だ」という結論には行かない。バルクで安定して捌ける相手がいることは、生産者にとって本物の価値だ。面白いのは、チュニジア自身が取っている打ち手が、全部を変えるものではない点である。容器入りの比率は今も14%で、政府はそこを伸ばす方針を掲げている。9割を今のまま回しながら、1割を自分の名前で出す。
自分の仕事に置き換えるなら、試せることは3つある。
- 自分の「タンカー」を特定する。提供しているもののうち、誰かに詰め直され、別の名前で最終顧客に届いているものは何か。受託開発、OEM、下請けの原稿、素材提供——形は違っても構造は同じだ。
- 全部ではなく、14%だけ自前でやる。既存の取引を切る必要はない。生産量の1〜2割だけ、自分のラベルで、自分の値付けで、最終顧客に直接出す線を1本引く。うまくいかなくても本業は無傷で、うまくいけば比率を動かせる。
- 認証より、接点を取りにいく。資格や品質証明を積む努力は5%の上乗せかもしれない。一方で、買う人と直接つながる工程は40%動かしうる。順番を間違えないことだ。
世界2位の生産力を持っていても、最後の一工程を手放せばラベルから名前が消える。逆に言えば、規模が小さくても、その一工程さえ握れば名前は残る。ジェムナの162人分の仕事は、その証明だ。
参考・出典
- News Tunisia: Tunisia Ranked Second Worldwide Among Leading Olive Oil Exporting Countries(国際オリーブ協会データ)
- News Tunisia: Olive oil exports reach 4.6053 billion dinars in the first nine months of the 2025/2026 season(ONAGRI)
- European Student Think Tank: Tunisian olive oil in a globalised world. Export relations with the EU
- The Christian Science Monitor: Local Tunisian date farm grows progress for its community
- Participedia: The Association for the Protection of Jemna's Oasis (APJO)
- European Parliament: MEPs back more duty-free olive oil imports to help Tunisia but want safeguards