ウガンダ西部には、本名とは別に「もう一つの名前」を持つ習慣がある。エンパアコ(Empaako)と呼ばれる名づけの仕組みで、バトーロ、バニョロ、バトゥク、バニャビンディ、バタグウェンダといった人々が、季節や時間、氏族に対応する伝統的な名前を持つ。呼びかけの言葉が一つ増えるだけで、人と人の距離の測り方が変わる。僕はこれを「関係設計のテクノロジー」として面白いと思ったし、実際に自分のチームで真似してみて効いた。

今日は人口4,590万人(2024年)、首都カンパラに180万人が住むこの国から、そのまま持ち帰れる4つの型を紹介する。

1. 「二つ目の名前」は、呼び方を designable にする

エンパアコは、その人の個人名とは別レイヤーの名前だ。季節や時間、氏族に紐づいた伝統名の体系から与えられる。つまり「あなたが誰か」を、生まれた家の事情だけでなく、共有された体系の側から言い直せる。

これが面白いのは、名前が一つしかない社会だと、呼び方の選択肢が「フルネームか、役職か、あだ名か」に限られてしまうからだ。二つ目の名前があると、フォーマルさと親しさを、対立させずに切り替えられる。

僕の試し方はこうだった。新しいプロジェクトを始めるとき、参加者全員に「この案件の中だけで使う呼び名」を1つ決めてもらう。役職でも本名でもない、そのプロジェクト固有の名前だ。効果は明確で、初回の打ち合わせで敬語の壁が半分崩れる。呼び方を設計対象にしていい、という発見はどんな組織にも使える。

小さく試せること

  • チームやコミュニティに「その場だけの第二の名前」を導入する(3人以上いれば成立する)
  • 名前の出どころを、上司や自分ではなく「共有の体系」に置く(季節・地名・担当領域など)

2. 稼ぐ作物と食べる作物を、はっきり分けている

ウガンダの農業を数字で見ると、構造がきれいに見える。2018年の生産量はサトウキビ390万トン、プランテン(料理用バナナ)380万トンで、プランテンは世界第4位(コンゴ、ガーナ、カメルーンに次ぐ)。トウモロコシ290万トン、キャッサバ260万トン、サツマイモ150万トンで世界7位。一方、コーヒーは21万1,000トンで世界10位ながら、エチオピアに次ぐアフリカ第2位の生産国であり、2017年には輸出の約17%、5億4,500万米ドルを稼いでいる。

つまり、量で圧倒的なのは自国で食べるプランテンやキャッサバで、外貨を運んでくるのはコーヒーだ。生活を支えるラインと、現金を運んでくるラインが別々に走っている。これは「主力商品が一番売れている商品でなくてもいい」という話にそのまま置き換えられる。

僕は自分の仕事を年に一度、この2列で並べ直している。左に「量は多いが自家消費に近いもの」(記事、実験、社内向けの検証)、右に「外貨を稼ぐもの」(有料の仕事)。両方が必要で、混ぜると判断を誤る。左を減らしても右は伸びないし、右がゼロなら左は続かない。

小さく試せること

  • 自分の活動を「生活を支える列」と「現金を運ぶ列」の2列に分けて書き出す
  • それぞれの列に、削ってはいけない1品目を決める

3. 内陸国が「通り道」を商品にしている

ウガンダは内陸国だ。東はケニア、北は南スーダン、西はコンゴ民主共和国、南西はルワンダ、南はタンザニアに接する。道路は2017年時点で約13万キロあるが、舗装されているのは約5,300キロ、わずか4%。しかもその舗装路のほとんどがカンパラから放射状に伸びている。鉄道は約1,250キロのうち稼働は56%程度で、実際に運行が続いているのはカンパラへの路線だけだ。

それでもインド洋のモンバサ港へつながるルートは決定的に重要で、いま主に道路が担っている。そしてこのルートはウガンダ自身のためだけでなく、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ民主共和国の一部、南スーダンの輸送需要も支えている。海に面していない国が、近隣数カ国の物流の「通り道」というポジションを握っているわけだ。エンテベ国際空港に加え、2018年1月には西部でカバレガ国際空港の建設が始まっている。

ここから取れる視点は単純で強い。自分が終着点でなくても、誰かの経路上にいれば価値になる。僕は新しい土地に入るとき、まず「自分は誰と誰の間の通り道になれるか」を紙に書く。紹介、翻訳、比較、要約——通り道の仕事は、資源がなくても始められる。

小さく試せること

  • 自分の周囲で「AとBが直接つながっていない」箇所を3つ探し、そのうち1つを実際につなぐ

4. 勝てる場所に集中し、新しい場所には早く入る

スポーツの記録が示す集中の仕方も見事だ。ウガンダはオリンピックで7個、コモンウェルスゲームズで39個のメダルを獲得しているが、そのすべてが陸上とボクシングだ。1972年ミュンヘン大会400メートル障害でジョン・アキブアが同国初の金メダルを獲り、2012年ロンドン五輪マラソンと2013年世界選手権ではスティーブン・キプロティチが優勝。ドーカス・インジクルは2005年ヘルシンキ世界選手権の3000メートル障害で、同国女子として初の世界選手権金メダルを手にしている。

同時に、まったく新しい領域には早く入る。2021年4月時点で、ウガンダは急成長中のラクロスの国際連盟に加盟するアフリカ4カ国のひとつであり、2022年のU-19世界選手権に初めて代表チームを送り込んだ。競技人口が世界的に固まっていないカテゴリーに、代表として最初に名乗りを上げる。強い分野は深掘りし、形成途上の分野には先に入る。この二段構えは、事業でも個人のキャリアでもそのまま使える。

ちなみにメディアの層の厚さも同じ発想で読める。国内には283のラジオ局と65のテレビ局があり、その多数が民間。使われている言語は少なくとも40、最も広く話されるのはルガンダ語で、公用語は英語、スワヒリ語は2005年9月に国の公用語となった。多言語・多局という前提は、「一つのメッセージを一つのチャネルで流す」やり方が通じないことを意味する。僕は日本語で書いた記事を、英語で要点だけ言い直して別の場所に出す実験を続けている。同じ中身でも、言語とチャネルを変えると届く相手が入れ替わる。

今日の持ち帰り

  • 呼び方は設計できる。第二の名前を1つ用意する
  • 「食べる列」と「稼ぐ列」を分けて管理する
  • 終着点になれなくても、通り道になれる
  • 強い分野は深く、新しい分野は早く

ウガンダは1962年10月9日に独立し、以降の政治は決して平坦ではない。それでも1990年から2015年まで実質GDPは年平均6.7%で伸び、GDPに占める農業の比重は56%から24%へ、サービス業は32%から55%へと入れ替わった。仕組みは動く。動く仕組みを見つけたら、まず自分の手元で小さく回してみるのがいちばん早い。

参考・出典