アメリカ合衆国政府は、自分がつくったものの著作権を持つことができない。これは比喩ではなく、条文にそう書いてある。だから NASA が撮った惑星の写真も、USGS がつくった地形図も、政府機関の分厚い報告書も、生まれた瞬間からパブリックドメインだ。許可も使用料も要らず、商用で使ってもいい。世界を回っていろいろな国の制度を見てきたが、これはかなり例外的で、そして仕事に直接使える。
「公開した」のではなく「最初から権利が発生しない」
根拠は合衆国著作権法第105条(17 U.S.C. § 105)。「本編に基づく著作権の保護は、合衆国政府のいかなる著作物に対しても与えられない」と定めている。ここでいう「合衆国政府の著作物」は第101条で定義されていて、合衆国政府の職員が職務の一部として作成した著作物を指す。つまり連邦の職員が仕事で撮った写真、書いた文章、つくった地図には、そもそも著作権が発生しない。
ここが面白いところで、これは「気前よく開放した」話ではない。「権利が生まれない」という設計だ。同じ条文の後半は、政府が譲渡や遺贈によって他人の著作権を受け取って保有することは禁じていない。つまり「自分でつくったものだけ、持てない」。
比べるとよくわかるのがイギリスだ。公務員・大臣・省庁が職務でつくった成果物は Crown copyright(王室著作権)として国が著作権を保有する。そのうえで Open Government Licence という無料のライセンスを出し、出所を明示すれば商用利用も含めて自由に使えるようにしている。「持ったうえで貸す」イギリス、「そもそも持たないアメリカ」。使う側から見た結果は似ていても、設計思想がまるで違う。
無料にしたら、価値のほうが跳ね上がった衛星写真
この設計思想が実験として一番きれいに出ているのが、地球観測衛星 Landsat のアーカイブだ。
もともと Landsat の画像は有料で、1シーンあたり400ドルから、高いものは4,000ドルした。USGS は2008年1月に無料開放の方針に署名し、同年4月21日に発表する。前後の数字がすごい。
- 開放前で最も配布が多かった2001会計年度:25,000シーン
- 開放後の2009会計年度:100万シーン超
- 開放以来の累計:1億6,000万シーン超(アーカイブ自体は1,000万シーン超)
「無料にしたんだから使われるのは当たり前」と思うかもしれない。面白いのはその先で、USGS は利用者に対する調査から経済価値を推計している。2011年で21.9億ドル、2017年で34.5億ドル(うち米国内の利用者が20.6億ドル)。無料にしたあとで、価値の推計額のほうが年々増えていった。
同じ報告書には、もし課金したらどうなるかの試算もある。1シーン56ドルにすると利用者はおよそ半減し、183ドルにすると「それでも払う」と答える人は現在の利用者の17%しか残らない。
ここから持ち帰れる型は、はっきりしている。複製コストがほぼゼロで、使われるほど価値が増えるものに値札をつけると、売上が減るのではなく市場そのものが縮む。Landsat の場合、有料時代に取っていた収入は、失われた利用の量に比べて桁が違った。自分の商品やデータが「この性質を持っているかどうか」を見分けられると、値付けの判断がまるで変わる。
2020年、最高裁が「法律の注釈」まで無料にした
この思想は連邦だけの話ではない、という決着が最近ついている。Georgia v. Public.Resource.Org, Inc.(2020年4月27日判決、5対4、ロバーツ長官執筆)だ。
ジョージア州の唯一の公式法典は「注釈付きジョージア州法典(OCGA)」で、現行の条文に加えて、法的拘束力のない注釈がぶら下がっている。州はこの注釈部分の著作権を主張し、法典をネットに公開した非営利団体を訴えた。
最高裁は「政府の布告の法理(government edicts doctrine)」で州の主張を退けた。論理はシンプルで、裁判官も議員も、職務として作成した成果物の「著作者」にはなれない、というもの。注釈に法的拘束力があるかどうかは関係ない。つくったのが立法の職務にある者なら、著作権の対象外になる。
ルールを知るために金を払わせない。この一線が、州レベルでも引き直された。
ただし「.gov にあるものは全部自由」ではない
ここを雑に理解すると事故になる。米政府自身が公表している注意点は、そのまま使える確認リストになっている。
- 政府サイトに載っていても、政府の著作物とは限らない。権利者の許諾を得て掲載している第三者の素材が混ざっている
- 州・地方政府の著作物には第105条は及ばない。ジョージア事件が無効にしたのは「法そのもの」に当たる部分だけ
- 商標と機関ロゴは別枠。NASA も、画像や動画は原則として著作権の対象外としつつ、インシグニア・ロゴタイプ・シールはパブリックドメインではなく、使用には事前の書面承認が必要だとしている
- 「政府が推薦している」と受け取られる使い方はできない
- 州法上のパブリシティ権・プライバシー権は、著作権とは別に残る
- 合衆国政府は、米国外では自国の著作物について著作権を主張しうる
この「棚ごとには信じられない」感じを、いちばんよく表している実例がある。国立公文書館(NARA)が所蔵する、アンセル・アダムスの国立公園写真226点(1941〜42年)だ。国立公園局の依頼で撮影されたもので、アダムスは当時「外部コンサルタント」に政府が払う最高レートである日給22ドル22セントと実費で雇われた。NARA はこの一覧の写真をパブリックドメインとしているが、シリーズ79-G だけは例外で、なお著作権が残る可能性があると明記している。
同じ写真家の、同じ時期の、同じ機関が持つ写真でも、扱いが分かれる。だから使うときは、棚を信じるのではなく1点ずつ出所と但し書きを確認する。ここさえ守れば、あとは驚くほど自由に使える。
明日から小さく試せること
実際に手を動かす形にすると、こうなる。
- 素材を買う前に3か所を見る。NASA Image and Video Library(宇宙・地球・実験施設)、USGS EarthExplorer(衛星画像・地形図)、National Archives Catalog(歴史写真・記録)。有料ストックを開く前にここを通す習慣をつけるだけで、資料費と権利確認の手間が減る
- 事業の仮説を data.gov で殴ってみる。50万件を超えるデータセットが公開されている。市場規模や地域分布の前提を、想像ではなく実データで一度検算する
- Landsat の型を、自分の資産で小さく試す。手持ちの資料・テンプレート・ノウハウのうち「複製コストがほぼゼロ」かつ「使われるほど価値が増える」ものを1つだけ選び、90日間だけ無料開放する。測るのは売上ではなく、問い合わせ数と、紹介経由で来た人の数。縮んだのか広がったのかは、90日あれば数字で見える
アメリカのこの制度が教えてくれるのは、「無料にする」が気前のよさの話ではない、ということだ。複製コストがゼロに近いものについては、囲うか開くかは倫理の選択ではなく、価値の総量をどう最大化するかという設計の選択になる。Landsat は、その問いに数字で答えを出した数少ない実例だ。手元の何かを同じ目で見てみると、値札の位置が違って見えてくる。
参考・出典
- 17 U.S. Code § 105 - Subject matter of copyright: United States Government works(Cornell LII)
- Learn about copyright and federal government materials(USA.gov)
- Crown copyright(The National Archives, UK)
- Opening Landsat Archive Helped Realize Its True Value(USGS EROS)
- USGS Report Updates Economic Value of Landsat Archive(USGS)
- Georgia v. Public.Resource.Org, Inc., 590 U.S. ___ (2020)(U.S. Supreme Court)
- Guidelines for Using NASA Images and Media(NASA)
- Ansel Adams Photographs(National Archives)
- Data.gov Catalog