「ゾウが村の収入源」——ジンバブエが発明した逆転の仕組み
ジンバブエの農村には、ゾウやバッファローが畑を荒らしにくる地域がある。普通なら「迷惑な野生動物」で終わる話だ。ところがこの国は1989年、世界に先駆けてひとつの制度をつくった。野生動物から得られる収益を、動物のそばで暮らす村に直接渡す——CAMPFIRE(Communal Areas Management Programme for Indigenous Resources)という仕組みだ。結果、密猟は減り、ゾウの個体数は増え、村には現金収入が生まれた。「厄介者を資産に変える」発想の転換が、世界の自然保護の教科書を書き換えた。
CAMPFIREの核心:権利を村に渡す
制度の要はシンプルだ。野生動物の管理権と収益権を、国ではなく地域の行政区(Rural District Council)に移す。行政区はサファリ事業者と契約し、狩猟ライセンスや観光の対価を受け取る。収益の40〜60%は、動物が実際にいるワード(集落単位)に配分される。
つまり、ゾウが多い村ほど収入が多い。動物を守るインセンティブが、制度の中に組み込まれている。
1989年から2001年までの累計で、コミュニティに渡った金額は2,000万米ドルを超えた。収益の89%はサファリ・ハンティングのリース料だ。ジンバブエ57地区のうち36地区がこの制度に参加し、国土の広い範囲をカバーしている。
現場で起きたこと——カニュリラ・ワードの実例
ザンベジ川流域のグルベ地区にあるカニュリラ・ワードは、CAMPFIREの初期モデルのひとつだ。1989年、このワードが狩猟収益から受け取った金額はZ$47,310。翌1990年にはZ$64,270に増えた。
注目すべきは使い道だ。村はこの収益でクリニックを建設し、さらに各世帯にZ$200の現金を配った。当時この地域の綿花栽培による平均年間収入がZ$500前後だったから、野生動物からの配当だけで年収の約4割に相当する上乗せになった計算だ。
「動物を守れば暮らしが良くなる」——この因果関係が目に見える形で届いたことが大きい。
密猟が減り、生息地が広がった理由
CAMPFIREが導入される前、対象地域では密猟が横行していた。動物は「国のもの」であり、村人にとっては畑を壊す敵でしかなかったからだ。
制度導入後、状況は変わった。村が自前のゲーム・モニター(野生動物監視員)を雇い、密猟者の情報を積極的に通報するようになった。守る理由ができたからだ。1980年から2000年にかけて、野生動物管理に使われる土地の面積は21%増加した。ゾウの個体数は増え、一部地域では減少していた生息地が回復に転じた。
国が上から「保護しろ」と命じるのではなく、村人が自分の利益として動物を守る。この構造転換がCAMPFIREの最大の功績だ。
この仕組みから持ち帰れる視点
CAMPFIREの原理は、野生動物保護に限らない。「負担を被っている当事者に、利益を直接渡す」という設計思想は、あらゆる領域に応用できる。
- 迷惑施設の立地問題——ゴミ処理場や風力発電所の周辺住民に、施設収益の一定割合を還元する仕組みは、まさにCAMPFIRE型の発想だ。
- オープンソース開発——メンテナンスの負担を背負う個人に、利用企業からの収益が届く構造をつくれば、プロジェクトは持続しやすくなる。
- 地域とビジネスの関係——店舗やイベントが「地域に迷惑をかける存在」から「地域に利益を生む存在」に変わるには、収益の流れを可視化して当事者に届ける設計がいる。
共通するのは「当事者が守りたくなる構造をつくる」というシンプルな型だ。罰則や道徳ではなく、利益の流れで行動を変える。
小さく試すなら
自分のプロジェクトや事業で「負担を被っている人」は誰か。その人に、成果の一部が直接届く仕組みを一箇所だけ入れてみる。ジンバブエの村人がゾウを守り始めたように、インセンティブの向きが変わると、行動は驚くほど変わる。