世界で消費されるマグロの約6割は、太平洋島嶼国の排他的経済水域(EEZ)で獲れている。2024年、西部中央太平洋のマグロ漁獲量は過去最高の約305万トンに達し、カツオだけで水揚げ額は約32億ドル(前年比8%増)に上った。この海は、小さな島国にとって最大の収入源だ。

ところが今、その魚が国境の外へ動き始めている。

海水温の上昇に伴い、カツオの群れがEEZの内側から公海へ移動するという予測が現実味を帯びてきた。Nature Sustainability誌に掲載された研究は、高排出シナリオで太平洋島嶼国のまき網漁獲量が平均20%減少し、漁業入漁料の損失が年間9,000万ドルに達しうると試算している。魚が動けば、ライセンス料も税収も一緒に消える。国によっては政府歳入の3〜4割を占める収入源だ。

対抗策①:7年がかりの「早期警報システム」

2025年、太平洋共同体(SPC)を中心に、緑の気候基金(GCF)が資金を出す7年間の地域マグロプログラム(GCF-FP259)が動き出した。柱のひとつが「Advanced Warning System(AWS)」——海水温や海流の変化からマグロの分布移動を予測し、各国が経済・食料安全保障リスクを事前に把握できる仕組みだ。

SPC、太平洋諸島フォーラム漁業機関(FFA)、オーストラリアのCSIROが科学面を担う。2026年6月にウェリントンで開かれた第142回事務レベル会合では、サモアのRoseti Imo博士が「気候変動が漁業資源に何を意味するか、共通理解が不可欠だ」と述べ、マーシャル諸島のGlen Joseph氏はAWSを「適応策を評価するためにも決定的に重要」と評価した。

ポイントは、このシステムが単なる学術研究ではなく「気候資金へのアクセスを正当化するエビデンスづくり」を兼ねていることだ。魚の動きをデータで証明できれば、損失補填や適応支援の交渉材料になる。科学と外交を直結させている設計が面白い。

対抗策②:10カ国合同の海洋パトロール「Tui Moana作戦」

マグロが動くと、違法漁業のリスクも動く。2026年5月、FFAが主導する合同漁業監視作戦「Operation Tui Moana」が3週間にわたって実施された。

  • 参加国:クック諸島、フィジー、キリバス、ニウエ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トケラウ、トンガ、ツバルの10カ国
  • 支援国:オーストラリア、ニュージーランド、フランス、アメリカ
  • 投入:ガーディアン級哨戒艇6隻、各国の航空機、衛星監視
  • 成果:200隻以上を遠隔探知、61件の臨検を実施、2隻を拿捕(船舶監視装置の未報告、無許可の洋上積替えなど)

ホニアラの地域漁業監視センター(RFSC)が全体を統括し、加盟国とパートナー機関から21名が派遣されて日次のインテリジェンス・ブリーフィングを回した。FFA事務局長のNoan David Pakop氏は「情報主導の協調的な漁業監視の力強い実証だ」と総括している。

ひとつの島国では到底カバーできない広大な海を、10カ国のリソースをつなげて面で守る。この「小国連合のネットワーク型監視」は、資源が限られた国が規模の壁を越えるための実践的な型だ。

対抗策③:5カ国のアルバコア同盟

2026年6月、クック諸島・フィジー・ニウエ・サモア・トンガの5カ国が、南太平洋ビンナガ(アルバコア)の持続的管理に関する覚書(MOU)に署名した。西部中央太平洋漁業委員会(WCPFC)での交渉に向けて、共通の優先事項を持って臨むための枠組みだ。

カツオがまき網漁の主役なら、ビンナガは延縄漁の主役。単価が高く、缶詰から刺身まで用途が広い。5カ国は「漁業管理における集団の声を強化し、海洋資源の責任ある利用を推進する」と共同声明で述べた。

大国が主導する国際交渉の場で、小さな島国が一枚岩で臨むことの意味は大きい。個別に交渉すれば圧倒されるところを、ブロックを組むことで存在感と交渉力を確保する。これもまた「小さな国の連合戦略」の具体例だ。

持ち帰れる視点

太平洋島嶼国のマグロ戦略には、規模の小ささを前提にした3つの型がある。

  • 予測で先手を打つ——AWSのように変化を数値で捉え、対策だけでなく資金交渉の武器にも使う。
  • 監視はネットワークで——1国では無理な広域カバーを、10カ国+パートナーの連合で実現する。
  • 交渉はブロックで——利害が近い国同士で先に合意を固め、大きな交渉テーブルに持ち込む。

これは国家だけの話ではない。リソースが限られたスモールプレイヤーが、変化の速い環境で自分のポジションを守るための汎用的な考え方だ。魚がどこに泳ぐかは選べない。けれど、動きを読んで、仲間と組んで、ルールを自分たちで作りにいくことはできる。

参考・出典