人口数千〜数万の太平洋の島国10カ国が、アフリカ大陸より広い海域を3週間で一斉パトロールし、違法操業の疑いがある船を2隻拿捕した。2026年5月の「オペレーション・トゥイ・モアナ(Operation Tui Moana)」の成果だ。小さな国がどうやって巨大な海を守っているのか。その仕組みが、じつに合理的で面白い。
56億ドルの海を、10カ国で守る仕組み
西・中央太平洋は世界最大のマグロ漁場だ。2024年の漁獲量は過去最高の305万9,000トン、推定価値は約56億ドル(約8,400億円相当)に達した。この漁場の大部分は、太平洋島嶼国の排他的経済水域(EEZ)の中にある。マグロからの収入は、これらの国にとって国家財政の柱だ。
問題は、海が広すぎること。各国のEEZを合わせると数百万平方キロメートルに及ぶ。どの国も単独では監視しきれない。そこで太平洋島嶼国が1979年に設立したのが、太平洋諸島フォーラム漁業機関(FFA)だ。FFAが毎年コーディネートする合同パトロールが、Operation Tui Moanaである。
3週間の作戦で何が起きたか
2026年のTui Moanaは5月4日〜22日に実施された。参加国はクック諸島、フィジー、キリバス、ニウエ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トケラウ、トンガ、ツバルの10カ国。さらにオーストラリア、ニュージーランド、フランス、アメリカが支援パートナーとして加わった。
作戦の結果をまとめるとこうなる。
- 船舶検査:61件(洋上+港湾)
- 船舶探知・照合:200件以上
- 要注意船舶の特定:4隻
- 拿捕:2隻(VMS(船舶監視システム)の未報告、無許可の洋上給油・転載、操業日誌の不備などの疑い)
これだけの海域を3週間でカバーできた背景には、明確な仕組みがある。
小国連合が機能する3つの設計
1. 共有司令塔:ホニアラの地域漁業監視センター
作戦の心臓部は、ソロモン諸島の首都ホニアラにあるFFAの地域漁業監視センター(RFSC)だ。ここに加盟国から21名のスタッフが派遣され、情報収集・作戦計画・監視活動を一元的に調整する。各国が別々に動くのではなく、1つの司令塔で海域全体を見渡す設計だ。
2. 共通装備:ガーディアン級哨戒艇
今回の作戦では6隻のガーディアン級哨戒艇が投入された。これはオーストラリアが太平洋海洋安全保障プログラム(PMSP)の一環として島嶼国に供与している全長39.5メートルの哨戒艇で、合計22隻が太平洋島嶼国に配備されている。航続距離は約3,000海里(約5,500km)。巡航速度12ノットで広大なEEZを長期間パトロールできる。同じ型の船を使うことで、整備・訓練・部品の共通化が実現している。
3. 多層の目:海・空・衛星の組み合わせ
哨戒艇に加えて、オーストラリア国防軍、ニュージーランド空軍、米沿岸警備隊、フランス海軍が航空監視を担当した。さらにVMS(衛星を使った船舶位置追跡システム)のデータをリアルタイムで分析し、不審な動きをする船を絞り込む。海上の船、空の航空機、宇宙の衛星という3層で、広大な海をカバーする仕組みだ。
年2回の「繰り返し」で精度が上がる
Tui Moanaは毎年の定例作戦だが、これだけではない。2026年はすでにその前に「オペレーション・ライ・バラン(Operation Rai Balang)」が実施されている。こちらはミクロネシア連邦、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツの8カ国が参加し、約1,330万平方キロメートルの海域をカバー。74件の検査、82件の目視確認、8隻の高リスク船舶を特定した。
北のミクロネシア海域をRai Balangで、南のポリネシア海域をTui Moanaでカバーする。年に2回、パートナーを入れ替えながら太平洋全域をスキャンするリズムが出来上がっている。
持ち帰れる「型」
この仕組みから読み取れるパターンは、小さなプレイヤーが大きな領域を管理するための普遍的な設計だ。
- 共有司令塔:各自がバラバラに動くのではなく、情報と意思決定を1カ所に集約する。
- 共通プラットフォーム:同じ装備・同じ手順を使うことで、訓練コストと調整コストを下げる。
- 多層センシング:1つの手段に頼らず、複数の観測レイヤーを重ねて死角を潰す。
- 定期リズム:年2回の反復で練度を上げ、データを蓄積し、抑止力を維持する。
56億ドルの資源を守るために、人口数千人の国も対等なパートナーとして参加し、仕組みの力で巨大な海を管理する。「小さいから無理」ではなく、「小さいからこそ連携の設計が要る」という発想が、太平洋の漁業監視には最初から組み込まれている。